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私の中にいるボク

私の中にいるボク(不定期読みきり小説)


小さい頃からウソをつくのが上手だった。気づいたら本当の気持ちを伝えるよりもウソのほうが楽になっていたのかもしれない。というよりも、どっちでもよかったのかもしれない。どっちだってさほど変わりはないんだからって。そんなふうに思いながらいつしか私の中にいるボクは育っていった。

ふとした瞬間にボクが現れる。ボクは自分の気持ちにとても正直だ。正直なので自分の気持ちの通りに行動してくれる。嫌なことや我慢することは基本的にはない。だって私にはできないことをするのがボクの役割なんだから。

あの時のボクも小さな頃と同じよう日常の中にある小さな出来事を作った。それはほんの小さな出来事かもしれないけれど距離と壁を作るためだった。何かを試すためだった。小さな出来事は誰かの出来事とリンクしていた方が納得させやすいことも知っていた。そうやって2つの出来事が私の中で進行していった。

ボクには私の声が聞えるけれど私にはボクの声が聞えない。なぜならボクの声は正直で純粋だけれど誰のことも受け容れないほど真っ直ぐなのだから。それが私にはずっと心地よいことだった。本音を見せる必要がないから私は安心してボクをリモートコントロールして見つめていられる。たとえそれがウソだったとしてもそれが私のやり方なんだから。

後悔も反省もしないボクは自由に好き勝手でいられる。我慢することもほとんどないし深く考える必要もない。相手の気持ちより常に自分の幸せを優先させる。自分が幸せでいられたらその幸せにあわせた本当の幸せがいつか見つかる。幸せを感じるのは紛れもない自分なのだから。ボクが思った気持ちを誰も邪魔することはできない。

そうやって2つの生活がはじまった。私とボクの共同生活は両極端な世界を見せてくれた。ボクは相変わらず刺激と安心の相反した世界で楽しんでいるようだった。私の方はボクが楽しんでいてくれていることでなんとか自分を保つことができるようになっていった。自分の時間を作りボクとして生きることでたくさんの楽しい現実を作ることができた。

やがて思い出すことはボクが経験してきたことばかりになっていった。自由だった。自分の思い通りになる世界でやっと息をすることができた。私の気持ちなんてどうでもよくなっていった。ボクにはやりたいことがたくさんあって誰も止めるものはいない。少しくらい誰かを傷つけたってそれは事故のようなもの。私には関係のないこと。

ボクはどんどん欲しいものを追い求めその力は増していくばかりだった。私でさえすでにボクがすることを止めることはできなくなっていった。明日や将来のことよりも今が大切だった。何も見えないし聞きたくなかった。それが私でありボクが選んだ生き方なのだから。


『なんだか悲しい話だわね。』

「そうかな。そういう生き方があってもいいんじゃないかな。」

『あなた本当にそう思ってる?』


そういうと彼女は目をふせながら顔の前で両手で三角形を作り自分の世界へ数秒だけ旅立っていった。短いフライトだった。戻ってくるまでの間はごくわずかだった。その数秒間の間に考えていたことを2本目のタバコに火をつけようとした瞬間に教えてくれたんだ。


『きっとね。本当もウソもないのかもしれないわね。結局、自分が何を選ぶかだけだもの。どちらでいれば絶対に幸せになれるってものでもないと思うし。世界が広がると言われたら実際にその通りなのかもしれない。』

両手の前で作った三角形を崩さないで彼女は続けた。


『ただどうしてなんだろうな。私はすごく寂しく感じてしまうの。誰にでも自分の中にたくさんの人格があると思うし本当は求めていることだってあると思うのね。だからといってすべてを叶えるわけにはいかないじゃない。』

「その通りだろ。だから無闇に否定なんてできないよね。」

『でもどうしてなんだろう。とにかくなんだか違うような気がする。感じ方の違いといわれたらそれまでだけれど。それじゃー私もボクも幸せになれないような気がするんだけれど・・・』

「そうかな。それもそれで幸せのひとつかもしれないよ。」

『わかってる。幸せの形がひとつだけじゃないってことも。』

それだけ言うと彼女はまっすぐに視線を僕に合わせてきた。いつもと違って大真面目な表情を浮かべながら0.5秒だけ待ってから続けた。光のフラッシュバックが終わろうとしていた。

『そうね。あなたの言うとおりかもしれない。そういう人生があってもいいのかもしれないわね。』


いつしかフラッシュバックの点滅が少しずつゆっくりと輝きを弱めていった。電球が切れる前の最後に輝くバチッという音を立ててやがて点滅が消えた。僕たちの周りにいる人達は誰もフラッシュバックが消えたことを知らなかった。

いつもの悪戯っ子の表情に戻った彼女が短いフライトをふっきたように口を開いてこう言った。誰にも聞かせたくなかったのか唇を僕の耳に触れる距離で小声でささやき始めた。


『なんだかお腹へっちゃったな。私もボクも同じ気分でいられる場所で思いっきり本音で話してみない?今夜はたくさん話したいことがあるし、あなたのことももっと知りたくなってきちゃったの。こういうワガママがいえる自分のことをわたしは大好きでいたいの。行こう!』


左手の手のひらに伝わるもうひとつの体温が意思を示していた。少しよろけた僕は彼女に言った。

「どっちだっていいんだよ。私もボクも。」

その言葉をかき消すように彼女は言った。


『強がんなくたっていいいって。あなたはあなたのままでいいんだし、それはわたしだって同じこと。みんな自分に対して必死で生きてるんだから。でも、とにかくお腹がへっちゃったの。さぁー行くわよー♪』

その時、僕のお腹が鳴った。大きな声で笑いながら彼女はとびっきりの笑顔になっていた。その笑顔と出会えたことに神様におおきく感謝した。このことを後で彼女に聞かせてあげよう。つか、聞いてもらいたいだけなんだけれど。


ふたりの楽しそうな足音がうれしそうにリズムを夜の街に奏でていった。


(おしまい)


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written by Shingoris Kamioka

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